謡曲「定家」に代表されるように、むかしからいわゆる
 定番のカップリング
 だったこの2人。

 かつてとりあげた「定家と式子内親王の相聞歌?」に引き続き、
 この2人の関係を追ってみたいと思います。

 定家葛
 杉田圭『超訳百人一首うた恋い。公式個人誌 うた変。』メディアファクトリー、2011年

 「定家(または「定家葛」 ていかかずら)」とは、ざっくり表現すると、上の絵のようなお話。
 定家式子内親王を愛する妄執が彼を葛にし、彼女の墓に巻き付く。

  くわしい全編現代語訳はこちら謡曲「定家」  (くじょう みやび日録)


 このお話は、金春禅竹の作と考えられています(岳父の世阿弥とする説もあります)。
 彼らが活躍したのは15世紀の室町時代ですから、
 そのころすでに2人は「定番カップリング」だったのかもしれません。

 能の作者たちは、世に知られた文学や和歌を典拠として舞台を作りました。
 とくに彼らが好んだ典拠のひとつに『源氏物語』があり、
 当時流布していたダイジェスト本を読んでいたといわれています。

 こうした当時のタネ本のひとつに、『源氏大綱』なるものがありました。
 世阿弥ら周辺の人間が読んでいたと思われるその本に、
 以下のような話が掲載されていました。

   ある物語に、式子内親王に定家の卿、心をかけて忍び契り給ふを、
   後鳥羽院聞し召して、内親王を召して、大いに誓ひをさせ給へり。
   内親王明くるより契るべからずとて誓文をたて、
   さて、その暮に内親王、定家卿へ、
   ながらへて明日まで人はつらからじこの夕暮に訪はば訪へかし
   御門の前にて、誓ひをたつる程に、明くるより参り逢ふべからずといふ歌なり。
   その暮に定家卿来り給へば、内親王手をとり、涙をはらはらと流し、
   面をも胸に押しあて、くだんの意趣を語り給へり。
   この思ひがはじめとなりて、定家卿後に死せり。内親王も果て給ふ。
   されば定家卿の思ひ、かづらとなりて、内親王の墓をとり巻き給へりとなり。
          『源氏物語大綱・真木柱』[新編日本古典文学全集『謡曲集』小学館、参照]

 超ざっくりまとめると……
 仲が後鳥羽院に知れてしまい反対された式子内親王は、もう逢えないって歌を定家に贈る。
 慌てて飛んできたけど別れざるを得ない定家は、その想いがもとで死んでしまった。
 内親王も死んで、定家の妄執は葛となり、彼女の墓に巻き付く……

 いやいや、定家むっちゃ長生きしてるし式子のほうが先に死んでるし、
 後鳥羽院がしゃしゃり出てくるのも意味不明だし!!

 ……っていうツッコミはおいといて
 やはり謡曲「定家」成立のころ(15世紀)にはすでに、 
 こうした伝説的な2人の関係が語られていたことがわかります。


 しかしこうした艶聞めいたお話、どこから生まれてきたのでしょうね。

 実は示唆的な論文があるそうで、取り寄せてみたのでご紹介します。

 定家の弟子であった西園寺実氏の、後嵯峨院と交わした和歌についての問答。
 「イキテシモアスマテ人ハツラカラシ、此歌者式子内親王被遣定家卿許哥也」
 つまり「明日まで人はつらからじ」の歌は内親王が定家に贈ったものだ、と、
 「正彼卿所語」(定家が<実氏に>語ったのです)という……。

 「後深草院御記」(後深草院は後嵯峨院の子)に記された挿話といいます。
 ただ御記そのものは断片的にしか残っておらず、
 実は上の部分は、14世紀前半頃に成立した頓阿による歌論書『井蛙抄』の、
 さらに近世の写本の末尾に書きとどめられていたのだそうです。
   [佐藤恒雄「後深草院御記の一断片」『和歌史研究会会報 第52号』1974年]


 ですから、どの程度信憑性のある話かは当然わからない。
 もし、もしも本当だとして、しかしそれが定家が(後にだとしても)
 軽く(笑)言っちゃうくらいのことだったのだから、単に歌人同士のこと、
 添削(?)的な意味合いだったのでは??



 ひとついえることは、もしかしたら、定家と式子内親王の恋の噂は、
 比較的はやい段階からささやかれていた可能性もある
、ということです。

 そしてそれは、ことの真偽は別として、人々の心を惹きつけた、ということ……

 

 さて、文中にあがっていた式子内親王の歌を最後に載せておきましょう。

   生きてよも 明日まで人も つらからじ この夕暮を 訪(と)はばとへかし
    (新古今和歌集・恋4・1329) 

    恋の苦しさに、私はもう明日には死んでしまうわ。
    あなたもつらくは当たらないでしょう?
    私をあわれと思う気持ちがあるのなら、今日、この夕暮れに、
    どうか私の命があるうちに、訪れるなら訪れてくればいい。



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