“斎宮女御”を知っていますか?

 未婚の内親王または女王がつとめる伊勢の斎宮と、天皇のきさきである女御……
 一見矛盾する存在ですが、斎宮→女御の順なら可能です。(逆はない)
 斎宮をつとめたあと入内した女性は一人ではありませんが、
 ふつう「斎宮女御」といえばこの方をさします。

 徽子(きし/よしこ)女王

 「三十六歌仙」にも選ばれた高名な存在だからです。

 醍醐天皇第4皇子・重明親王の第1女王として、延長7年(929)に生まれました。
 母は藤原忠平女・寛子です。
 つまり醍醐天皇の皇孫であると同時に、藤原摂関家の忠平の孫でもありました。
 重明の母は源融の孫にあたり、「河原左大臣」源融の血も引くことになります。

 朱雀天皇の承平6年(936)、8歳で伊勢斎宮に卜定されました。
 斎宮は未婚の内親王から卜定されますが、適任者がなければ女王でもよいとされ、
 賀茂の斎院に比べて都から遠ざかる分女王が選ばれることが多かったのでは、
 と私は思っています。

 天慶8年(945)、母の死により斎宮の任を解かれ、帰京します。
 天暦2年(948)末、兄朱雀天皇に代わっていた村上天皇に乞われて入内しました。
 徽子女王20歳、父の異母弟にもあたる村上天皇(醍醐第14皇子・成明親王)は23歳。

 局を承香殿に与えられ、翌年4月には女御宣下、年内に規子内親王(第4皇女)出産
 和歌と琴にすぐれ、歌合も主催して文雅の時代を彩った、皇族(王女御)であり元斎宮。
 後宮は賑やかでしたが、中宮である藤原安子(師輔女)の次に重んぜられた后妃だったとも
 いわれます。(王女御には荘子女王がいるが、女御宣下は天暦4年と徽子よりも遅い)

 ただ、結局皇子を儲けることなく、重明の死後は有力な後ろ盾となる兄弟もなく、
 里居がちでありました。だからこそ、天皇との相聞歌が多く残ったともいえますが。


 そういうと、なんだか薄倖の儚げな美女のイメージですが、『斎宮女御集』などの歌からは、
 意外な一面も見え隠れします。

 実は父の重明は、徽子の母が亡くなってから後妻を迎えていました。
 藤原師輔女で中宮安子の実妹・登子です。師輔と徽子の母はともに忠平の子なので、
 徽子には従姉妹にあたり、年齢も近かったと思われます。
 ところが彼女は重明の死後、村上天皇の寵愛を受けるようになっていたのです!

  いかにして はるのかすみに なりにしか おもはぬやまに かかるわざせし
                                   (『斎宮女御集』)

 どうして亡き父の北の方であったお方が、よりにもよって同じ後宮に入るなどという
 ことをなさったのでしょう。

 この登子と夫村上天皇の仕打ちに徽子は傷つき、激しい非難の心を隠せません。

  さかさまに いふともたれか つらからむ かへすがへすも みをぞうらむる
                                     (『同』)

 この「み」(身)は、みずからのこと・運命なのでしょう。
 このようなひどいこととはいっても誰が悪いわけではない、
 という意味でしょうが、これにはむしろ彼女の自尊心の高さを感じます。


 康保4年(967)、村上天皇が崩御しました。徽子39歳。
 徽子はほかのきさきたちのように出家することもなく、病死することもありませんでした。
 規子内親王にしっかりした後見のないことも踏み止まった理由と思われます。
 その娘規子が、円融天皇の天延3年(975)、斎宮のまま亡くなった隆子女王のあとの
 斎宮に卜定されました。

 そこで母徽子は、前代未聞の行動 (゚ロ゚;)エェッ!? に出ました。
 翌々年の規子内親王の伊勢群行に、先例なく承諾のないまま、同行したのです
 時の円融天皇が止めても決行、これには追認するしかありませんでした。

 このため徽子は、斎宮になった娘の伊勢行きに従った『源氏物語』の六条御息所の
 モデルの一人
であると見られているのです。
 思えば、上の歌に見た内に秘めた激しさ、自尊心の高さなども六条に通じます。


 寛和元年(985)、円融天皇の譲位により無事斎宮の任を終えた規子内親王が
 帰京しますが、ともに帰京した徽子はすでに病身だったと伝えられ、
 その年のうちに亡くなったとされています。57歳でした。


 [参考文献]
 山中智恵子『斎宮女御徽子女王 歌と生涯』大和書房、1976年
 斎藤正昭『源氏物語のモデルたち』笠間書院、2014年
 栗本賀世子『平安朝物語の後宮空間―宇津保物語から源氏物語へ―』武蔵野書院、2014年




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