◆本紹介◆平安時代・永井路子
永井路子さんの古代史小説を紹介するコーナー、第三回目にして、
すでに小説ではなくなってしまいました!
この本は手元にないうえ1984年刊行の古い本なので入手できずにいたところ、
たまたま図書館で見かけたため、急遽、覚書的に記事にしておきます。
岩波書店の<古典を読む>シリーズ11『大鏡』です。
▲初版(岩波書店・昭和59年)表紙。
永井路子さんが学生ではなくなり、大人になってから再読したとき
味わった「胸のふるえるような新鮮な感動」(4頁)。
(…)過度の感動流出を抑えたさわやかなタッチ、短い文章の中で人間を
みごとに浮かびあがらせているテクニックの冴え、対象に溺れこまない、
ちょっとばかり皮肉な視線。まさに大人の文学の妙味がここにはあった。(…)
この感動を読者に伝えるべくまとめられた一冊です。
永井さんには、代表作の藤原道長を描いた長編『この世をば』をはじめ、
平安朝を舞台にした作品が長編短編問わず多くあります。
この『大鏡』は、それらの小説のエッセンスをかみ砕き、さまざまな大鏡の面白い
エピソードを具体的に交えつつ(原文抜粋豊富。底本:岩波文庫版日本古典文学大系)、
エッセイの形で提示したもの、といえるでしょう。
道長の10歳前後の息子二人(のちの頼通と頼宗)が一条天皇臨席のもと、
東三条院詮子の四十の賀で舞を披露したときのエピソードの例などが印象的。
実は『この世をば』に描かれている一場面ですが、『大鏡』と貴族の日記類から
永井さんがどのようにあの場面を想像/創造したのか、種明かしがあったりします。
また、中でも終始一貫してこの本で永井さんが述べていることの一つが、
これも永井さんの小説やエッセイを読まれる方にはおなじみですが、
* 母 后 の 重 要 性 * です。
例えば冒頭の無味乾燥な“天皇メモ”ですが、『日本書紀』と異なりきさきや
子については記載がないのに、その母后について詳細に記されています。
そのほかにも作品中母子関係や母同士が姉妹であるなどの関係の示唆が多く、
大鏡は母子の関係を重くみていると述べられます。
ぜひこれは私も個人的にも見てみたいのですが、永井さんは想像しています。
この男系中心の系図【注:『尊卑分脈』】とは別に、女系・母系中心の系譜を
もう一つ作ることができたならば、思いがけない人間関係や、
その上に描かれた政治事件の謎を解くことができるのではないだろうか。(45頁)
永井路子の平安時代小説のサブテキスト的存在である一冊です。
古代史作品年表・永井路子本棚へ
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すでに小説ではなくなってしまいました!
この本は手元にないうえ1984年刊行の古い本なので入手できずにいたところ、
たまたま図書館で見かけたため、急遽、覚書的に記事にしておきます。
岩波書店の<古典を読む>シリーズ11『大鏡』です。
▲初版(岩波書店・昭和59年)表紙。
永井路子さんが学生ではなくなり、大人になってから再読したとき
味わった「胸のふるえるような新鮮な感動」(4頁)。
(…)過度の感動流出を抑えたさわやかなタッチ、短い文章の中で人間を
みごとに浮かびあがらせているテクニックの冴え、対象に溺れこまない、
ちょっとばかり皮肉な視線。まさに大人の文学の妙味がここにはあった。(…)
この感動を読者に伝えるべくまとめられた一冊です。
永井さんには、代表作の藤原道長を描いた長編『この世をば』をはじめ、
平安朝を舞台にした作品が長編短編問わず多くあります。
この『大鏡』は、それらの小説のエッセンスをかみ砕き、さまざまな大鏡の面白い
エピソードを具体的に交えつつ(原文抜粋豊富。底本:岩波文庫版日本古典文学大系)、
エッセイの形で提示したもの、といえるでしょう。
道長の10歳前後の息子二人(のちの頼通と頼宗)が一条天皇臨席のもと、
東三条院詮子の四十の賀で舞を披露したときのエピソードの例などが印象的。
実は『この世をば』に描かれている一場面ですが、『大鏡』と貴族の日記類から
永井さんがどのようにあの場面を想像/創造したのか、種明かしがあったりします。
また、中でも終始一貫してこの本で永井さんが述べていることの一つが、
これも永井さんの小説やエッセイを読まれる方にはおなじみですが、
* 母 后 の 重 要 性 * です。
例えば冒頭の無味乾燥な“天皇メモ”ですが、『日本書紀』と異なりきさきや
子については記載がないのに、その母后について詳細に記されています。
そのほかにも作品中母子関係や母同士が姉妹であるなどの関係の示唆が多く、
大鏡は母子の関係を重くみていると述べられます。
ぜひこれは私も個人的にも見てみたいのですが、永井さんは想像しています。
この男系中心の系図【注:『尊卑分脈』】とは別に、女系・母系中心の系譜を
もう一つ作ることができたならば、思いがけない人間関係や、
その上に描かれた政治事件の謎を解くことができるのではないだろうか。(45頁)
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