和様の書を代表する一人、平安時代中期の藤原行成(ゆきなり。こうぜい、とも)(972-1027)。
 行成による和様の書の完成形ともいわれる作品が、「白氏詩巻」です。


 和様の書:行成
 ▲2013年、東京国立博物館「和様の書」目録でも表紙を飾る

 
 今回は、この書の経歴についてご紹介したいと思います。

 まずは作品の概要。藤原行成の署名はありませんが、彼の真筆とされており、
 日付は寛仁2年(1018)8月21日(先に前の年号「長和」と誤り、見せ消ちにて訂正)。
 内容は白楽天(白居易)の漢詩8首です(末尾だけ残るものを入れると9首)。
 同時代の藤原公任によるアンソロジー「和漢朗詠集」にも白楽天の詩は多く採用
 されており、この時代の貴族社会に白楽天が普及していたこともうかがえます。
 形状は、色違いの染紙9枚を繋げてあります。
 

 この作品は現在、東京国立博物館に所蔵されていますが、その前は高松宮家、
 元は高松宮家の前身・有栖川宮家、その前は伏見天皇(1265-1317)の花押があり
 天皇の愛蔵品だったようです。

 それ以前に確かなのは、行成の直系である世尊寺家が持っていたことです。
 入手の経緯が、9枚の後に藤原定信(世尊寺家第5世、1088-1156)の手で
 保延6年(1140)に加えられた奥書からわかります。この内容が面白いのです

 要約すると、以下の通り。

   ある経師の妻という女が古い書を売りに来た。見ると祖の行成の手蹟、
   ラッキーと思ってさっそく購入。しかも小野道風(のちに行成とともに「三蹟」と
   称せられる)の名作「屏風土代」とセットになっているのだ!
   なんとお得!! その値段は××××であった!!

 興味深い値段は伏字というか、のちに不都合が出たためか塗りつぶされていて、
 裏から透かしてみてもまったくわからないそうです。残念。
 道風の「屏風土代」とセット売りだったということも面白いです。


 100年と少し後の直系子孫で、やはり名筆家であった定信が鑑定しているので
 行成の真筆として間違いないそうです。


 ところで、行成の署名こそないものの、9枚目の日付の後の末尾には、
 この書について本人(筆者)の手で記されています。

   経師の筆を以ゐ [用い] たれば、點畫 所を失へり
   来者 咲ふ [笑う] べからず咲ふべからず

 経師の筆で書いたので、出来が今一つ、笑わないでね、と言っています。

 売りに来た女の家の祖先に頼まれてその場で書いた即興だったのでしょうか。
 和様の書の最高峰ともされる作品ですが、行成にとってはイマイチ
 それとも、謙遜……


 [参考文献]『日本名跡叢刊12 平安―藤原行成 白氏詩巻/本能寺切』二玄社、1977年



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