◆展覧会記録◆2016年 東京国立近代美術館
写真はペアチケット<頼朝・義経券>。
高名な屏風作品《黄瀬川陣》より頼朝(右)・義経兄弟の顔部分アップです。
5月15日(日)まで、東京国立近代美術館(最寄りは竹橋駅)にて開催中。
安田靫彦(やすだゆきひこ、1884-1978)の名は知らなくても、
生涯を歴史画に捧げて歴史の名場面をたくさん描かれた日本画家、
その絵を教科書や資料集などで目にしてきた人は多いはず。
その歴史画を中心に100点以上が一挙集結した、大回顧展です。
▲図録、表紙は《王昭君》(昭和22年)
▲記念に購入したクリアファイル。
左《飛鳥の春の額田王》(昭和39年)、右《夢殿》(大正元年)
どれだけ“お馴染み”かというと、いま手元の国語便覧をめくってみるだけで、
「平安貴族の一生」の頁に「中宮彰子の出産」として《御産の祷》が、
「万葉集」の頁に《飛鳥の春の額田王》(上のグッズ参照)が、
「漢文編」には《項羽》《鴻門会》《王昭君》が採用されていました。
高校時代の便覧なので年代ものですが、大好きでよく見ていたし、
いまだ手放さず手元に置いているので、ボロボロの一冊です。
ずっと眺めていた絵なので、本物が目の前にある というだけで感激
■参考までに、小さいですが、便覧の写真■(『最新国語便覧』浜島書店、初版は1987年)
左に『紫式部日記』を参考にした《御産の祷》
左上に《項羽》、右下に《鴻門会》。いずれも漢文で習った物語の一場面
今回は安田靫彦個人の大回顧展ということで、画家が10代なかばから90代にいたるまで
生涯にわたる作品が集まっています。
なにより驚いたのは、画家の早熟さで、最初の展示室が10代からのごく初期の作品を
集めた構成だったのですが、すでにして完成していた超絶技巧に圧倒される……!
比較的有名な絵かと思われる、物部守屋を描く《守屋大連》は24歳の作(皺や息遣いまで
生々しい印象だ)、今回初めて知って感激した《遣唐使》は16歳の作。
15歳の作品もありましたが、最初期に共通する特徴は、本当にリアルで色彩が暗め。
単純な写実からスタートしているのですね(単純と言ってしまうには巧すぎるけど)。
ただ、画面に漂う情緒というか物語性の豊饒さはすでに感じられました。
現在広く知られている作品は、もっと色彩豊かで、写実に基づいていてもデフォルメが
されていますよね。上に挙げた《飛鳥の春の額田王》や《項羽》《鴻門会》に一目瞭然です。
転機になった最も早い作品が、聖徳太子を描いた、上にある《夢殿》だそうです。
明治から大正にかわるころの作品で、ぐっと幻想的に描かれています。
この絵、山岸凉子が『日出処の天子』の最初の扉絵の参考にしたんじゃないかしら
▲山岸凉子『日出処の天子』第1回が掲載された「LaLa」80年4月号。
(『山岸凉子『日出処の天子』古代飛鳥への旅』平凡社、2016年より)
また、考証の確かさにも定評があり、鎧兜はもちろん錫杖などの小物にいたるまで、
実物に基づき、また最新の考古学研究の成果を取り入れたりもしているそうです。
額田王の背景にイメージとして描かれているのは、大和三山や飛鳥奈良の寺院。
左上は薬師寺で左下は法隆寺だそうで、もちろん位置関係はデフォルメですが、
建物は細部まで再現されているそうです。
さて、ここからはこぼれ話を。
★《卑弥呼》という作品が出ていましたが、これは卑弥呼のバストアップを大きく描き、
背後に山を配しています。山は「阿蘇山」! てことは、邪馬台国=九州説?
と思いきや、卑弥呼が手にしている杖は奈良の茶臼山古墳出土品を参考にしているとか。
それと未見ですが、畿内説を下敷きにした《大和のヒミコ女王》も描いたそうです。
★《御産の祷》は、藤原道長の娘・中宮彰子が一条天皇の皇子を無事出産する、
その護摩を焚いた加持祈祷の場面を、『紫式部日記』に基づいて描いたものです。
実はこの作品は三幅対の右に構想されており、中央には道長が描かれる予定だった……
でも結局、描かれることはなかったそうな。あ~残念!!
* * *
写実どっぷりの初期作品から、色彩豊かで様々な表現を試み、やがて画家独自の描き方で
画家の世界を完成させていく大正から昭和の戦前、そして戦後作品。
作風は変わっても、変わらず根底にあるのは文学的要素でしょうか。
挿絵出身の鏑木清方との交流も深かったようですし、安田靫彦には“物語性”を感じます。
歴史のできごとではなく、そこに生きた人物に愛着を持ち、内面まで描こうとしたのかな。
だから惹かれるのかもしれない、などと思えてきました。
展覧会はまだまだ開催中
琳派作品から想像するのとはまったくちがう《風神雷神図》も面白いですよ。
どこか天平の美少年・阿修羅像にも通ずる雰囲気です。
東京近郊の方、ぜひとも歴史の名場面を鑑賞し、歴史上の人物と対面しましょう
詳しくは公式サイトへ。
東京国立近代美術館トップ頁/安田靫彦展トップ頁
゚・:,。゚・:,。★ ↓↓↓ 古代史推進のために! クリックしていただけるととても嬉しいです゚・:,。゚・:,。☆
写真はペアチケット<頼朝・義経券>。
高名な屏風作品《黄瀬川陣》より頼朝(右)・義経兄弟の顔部分アップです。
5月15日(日)まで、東京国立近代美術館(最寄りは竹橋駅)にて開催中。
安田靫彦(やすだゆきひこ、1884-1978)の名は知らなくても、
生涯を歴史画に捧げて歴史の名場面をたくさん描かれた日本画家、
その絵を教科書や資料集などで目にしてきた人は多いはず。
その歴史画を中心に100点以上が一挙集結した、大回顧展です。
▲図録、表紙は《王昭君》(昭和22年)
▲記念に購入したクリアファイル。
左《飛鳥の春の額田王》(昭和39年)、右《夢殿》(大正元年)
どれだけ“お馴染み”かというと、いま手元の国語便覧をめくってみるだけで、
「平安貴族の一生」の頁に「中宮彰子の出産」として《御産の祷》が、
「万葉集」の頁に《飛鳥の春の額田王》(上のグッズ参照)が、
「漢文編」には《項羽》《鴻門会》《王昭君》が採用されていました。
高校時代の便覧なので年代ものですが、大好きでよく見ていたし、
いまだ手放さず手元に置いているので、ボロボロの一冊です。
ずっと眺めていた絵なので、本物が目の前にある というだけで感激
■参考までに、小さいですが、便覧の写真■(『最新国語便覧』浜島書店、初版は1987年)
左に『紫式部日記』を参考にした《御産の祷》
左上に《項羽》、右下に《鴻門会》。いずれも漢文で習った物語の一場面
今回は安田靫彦個人の大回顧展ということで、画家が10代なかばから90代にいたるまで
生涯にわたる作品が集まっています。
なにより驚いたのは、画家の早熟さで、最初の展示室が10代からのごく初期の作品を
集めた構成だったのですが、すでにして完成していた超絶技巧に圧倒される……!
比較的有名な絵かと思われる、物部守屋を描く《守屋大連》は24歳の作(皺や息遣いまで
生々しい印象だ)、今回初めて知って感激した《遣唐使》は16歳の作。
15歳の作品もありましたが、最初期に共通する特徴は、本当にリアルで色彩が暗め。
単純な写実からスタートしているのですね(単純と言ってしまうには巧すぎるけど)。
ただ、画面に漂う情緒というか物語性の豊饒さはすでに感じられました。
現在広く知られている作品は、もっと色彩豊かで、写実に基づいていてもデフォルメが
されていますよね。上に挙げた《飛鳥の春の額田王》や《項羽》《鴻門会》に一目瞭然です。
転機になった最も早い作品が、聖徳太子を描いた、上にある《夢殿》だそうです。
明治から大正にかわるころの作品で、ぐっと幻想的に描かれています。
この絵、山岸凉子が『日出処の天子』の最初の扉絵の参考にしたんじゃないかしら
▲山岸凉子『日出処の天子』第1回が掲載された「LaLa」80年4月号。
(『山岸凉子『日出処の天子』古代飛鳥への旅』平凡社、2016年より)
また、考証の確かさにも定評があり、鎧兜はもちろん錫杖などの小物にいたるまで、
実物に基づき、また最新の考古学研究の成果を取り入れたりもしているそうです。
額田王の背景にイメージとして描かれているのは、大和三山や飛鳥奈良の寺院。
左上は薬師寺で左下は法隆寺だそうで、もちろん位置関係はデフォルメですが、
建物は細部まで再現されているそうです。
さて、ここからはこぼれ話を。
★《卑弥呼》という作品が出ていましたが、これは卑弥呼のバストアップを大きく描き、
背後に山を配しています。山は「阿蘇山」! てことは、邪馬台国=九州説?
と思いきや、卑弥呼が手にしている杖は奈良の茶臼山古墳出土品を参考にしているとか。
それと未見ですが、畿内説を下敷きにした《大和のヒミコ女王》も描いたそうです。
★《御産の祷》は、藤原道長の娘・中宮彰子が一条天皇の皇子を無事出産する、
その護摩を焚いた加持祈祷の場面を、『紫式部日記』に基づいて描いたものです。
実はこの作品は三幅対の右に構想されており、中央には道長が描かれる予定だった……
でも結局、描かれることはなかったそうな。あ~残念!!
* * *
写実どっぷりの初期作品から、色彩豊かで様々な表現を試み、やがて画家独自の描き方で
画家の世界を完成させていく大正から昭和の戦前、そして戦後作品。
作風は変わっても、変わらず根底にあるのは文学的要素でしょうか。
挿絵出身の鏑木清方との交流も深かったようですし、安田靫彦には“物語性”を感じます。
歴史のできごとではなく、そこに生きた人物に愛着を持ち、内面まで描こうとしたのかな。
だから惹かれるのかもしれない、などと思えてきました。
展覧会はまだまだ開催中
琳派作品から想像するのとはまったくちがう《風神雷神図》も面白いですよ。
どこか天平の美少年・阿修羅像にも通ずる雰囲気です。
東京近郊の方、ぜひとも歴史の名場面を鑑賞し、歴史上の人物と対面しましょう
詳しくは公式サイトへ。
東京国立近代美術館トップ頁/安田靫彦展トップ頁
゚・:,。゚・:,。★ ↓↓↓ 古代史推進のために! クリックしていただけるととても嬉しいです゚・:,。゚・:,。☆