◆漫画紹介◆奈良時代、里中満智子

 里中満智子『女帝の手記』:平城京に実在した女帝を漫画化


 大ヒット漫画『天上の虹』の世界を手軽に


 昨年(2015年)、持統天皇を描いた超大作『天上の虹』が完結し、話題を呼んだ
 漫画家・里中満智子さん。並行して描いていた作品の一つがこの『女帝の手記』です。

 持統天皇よりも少し後、奈良時代に実在した女帝・孝謙天皇重祚して称徳天皇
 生涯を描いた物語
です。『天上の虹』の続編として、またあまりにも詳細で長大な『天上の虹』
 世界のダイジェスト版としても、手軽に読める単行本5冊(4冊版もあり)完結です。


 女帝の手記
 ▲写真は、現時点で最新版の講談社KCDX版(全5巻・2015年)

 ◆孝謙・称徳天皇(阿倍内親王)の生涯について、簡単な説明◆過去記事

 

 生涯を支配する「藤原氏」の呪縛

 この作品には、大きく分けて二つのテーマがあると思いました。
 その一つが、「藤原氏」です。

 のちの孝謙天皇こと阿倍内親王は、聖武天皇の皇女として、藤原不比等の娘の
 安宿媛(あすかべひめ、のちの光明皇后藤原光明子)から生まれました。

 当然彼女は藤原の手の許で育つことになります。
 母の母・県犬養橘三千代(不比等の妻)、母の兄たち(藤原武智麻呂以下四兄弟)、
 そして不比等の娘として、藤原氏の女としての、強烈な意識を持つ母――

 「藤原氏」との関係に、守られ、陶酔し、反発し、呪縛され、迷い、対立し……
 この作品(つまり彼女の生涯)の最初から最後まで、通底する大きなテーマです。

 偉大なる母・光明皇后の壁

 藤原氏の「呪縛」に含まれますが、阿倍内親王(孝謙・称徳天皇)の生涯を語るのに、
 父・聖武天皇はもちろんですが、それ以上に母・光明皇后の存在の大きさは欠かせません。

 すべてにおいて優秀で完璧な母に敵わないという劣等感、
 藤原氏の権化(藤原氏の権力掌握のために尽くす)のような母からの被支配感、
 それらを彼女は脱却できるのか?

 このテーマは、『女帝の手記』だけでなく、阿倍内親王を描いた作品に共通する
 視点のような気がします。それだけ絶大な存在感を示す光明皇后です

 道鏡との真実の愛に出逢うまで

 もう一つ柱になるテーマは、女帝のの問題です。

 女性初の皇太子を経て帝位に就いた彼女には、生涯独身が義務づけられ、
 結婚どころか恋の一つも許されない立場に悩み苦しみます。

 男性性を感じさせない吉備真備には親しみの感情を持ちますが、そんな彼女の
 潔癖性や裏に潜む女性としての孤独や欲望を利用したのが、藤原仲麻呂でした。

 しかし、やがて彼女は真実の愛に気づきます……道鏡の存在です。
 権力欲にまみれた怪僧・妖僧とは対極的な描かれ方の、あたたかな人物です。
 愛を知って彼女は人格的にも目覚め強くなり、鮮やかな変貌ぶりは読みどころ

 すべての想いを遂げることなく亡くなってしまう彼女ですが、ラストシーンはやわらかく
 あたたかく、救われる思いがしました。



 この道鏡や仲麻呂の描き方(解釈)は、創作物から学術書まで、さまざまです。
 例えば歴史小説家・永井路子さんなどと比べても、たいへん興味深いです。


 ★ ☆ ★

 阿倍内親王=孝謙・称徳天皇、とても惹かれる人物です。
 できれば、里中さんの「あとがき」をじっくり読んでいただきたいと思います。
 そこに、この漫画の解釈も含め、大事なことが書かれています


 ◆書誌データ◆5巻完結、KCDX版

 

 ★女帝関連記事西大寺に称徳天皇の足跡を追う


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