人気の“ならまち”で井上内親王を想う
悲劇の内親王「井上皇后」とは?
おしゃれで趣ある街歩きスポットとして人気の観光地・ならまち。
ここで、一人の悲劇の内親王をしのんでみました。
その内親王の名は、井上(いのえ、いのうえ/いがみ)。
聖武天皇の娘で、孝謙・称徳女帝にとっては異母姉にあたります。
ただ、女帝の母は絶大な権勢を誇る皇后・藤原光明子であるのに対し、
井上の母は勢力のない県犬養氏にすぎませんでした。
井上はたった5歳で伊勢斎王に定められ、長く清浄の生活を送りますが、
28歳で任を解かれた後、帰京して結婚しています。
称徳女帝が皇太子を定めぬまま亡くなったあと、皇位についたのは、
井上の夫・白壁王。天智天皇の孫にあたる人物です(光仁天皇)。
このとき井上は54歳。聖武の娘である彼女はほどなく立后され、
彼女の生んだ他戸(おさべ)皇子も、翌年立太子されるのですが……
2年もたたないうちに、井上皇后は“夫を呪詛した”罪で皇后の位を廃され、
「罪人の生んだ人間を天皇にするわけにはいかない」との理由で、
他戸も廃太子とされてしまいます。
最終的には、宇智郡の没官宅(現在の奈良県五條市)に母子は幽閉され、
なんと同日に落命しています! 宝亀6年(775)、井上59歳でした。
これは謀殺にしか思えませんし、呪詛の件も、真実は闇の中。
こうした経緯で立太子し、即位したのが、あの「桓武天皇」です。
御霊神社(南都御霊神社)
偉大なる帝王・桓武天皇は、一面では「怨霊」に悩まされた生涯でもありました。
もちろん、桓武の怖れた「怨霊」の中には、井上内親王(廃后)も……
こうした畏怖の念は「怨霊信仰」となり、のちの世には「御霊会」が開かれます。
現在の京都三大祭・祇園祭へとつながっていく行事です。
この信仰は非業の死を遂げた者の霊を畏怖し、これを慰和してその祟りを免れ
安穏を得ようとする(都合のいい)もので、御霊の主体には井上のような特定の
個人(主に政治的失脚者)があてられるようになりました。
全国に存在する「御霊神社」は御霊信仰がもとになっています。
ことに井上母子最期の地に近い奈良県の五條市霊安寺町にある御霊神社は、
井上内親王のほか、他戸親王、早良親王、火雷神を祭神としています。
ならまち(奈良市)にある御霊神社はその分祀にあたります。
鳥居前の狛犬は悪戯しないように(されないようにではないのです!)足を結わえ
付けられているとか。
現在では「えんむすびの神様」として親しまれており、怨霊の面影はありません。
小さくて静かな神社さんです。「恋みくじ」なんてのもあったりします。
しかし祭神は……
井上皇后、他戸皇太子、早良親王、藤原大夫人(吉子)、藤原広嗣、
伊予親王、橘逸勢、文屋宮田麻呂、それに事代主命(えびす様)
政争に敗れ「怨霊」となったとされた(思われた)方ばかりです。
平安初期三筆の橘逸勢の名もあり、書道・芸事の上達というご利益もあるとか。
井上と他戸母子が本殿に祀られていますね。
実はならまち一帯は、かつて勢力を誇った元興寺の寺域でした。
母子は宇智郡に送られる前、元興寺に押し込められていたとも聞きますから、
この付近に鎮魂の社が建てられたのは、そうした由来からでしょうか。
google地図におおよその寺域を朱線で載せた図。
現在の真言律宗元興寺のパンフレットを参考に作成しています。
青い矢印の示す☆印が現在の御霊神社、朱線南端中央がかつての南大門の位置。
創建は延暦19年(800)ですから、平安京に遷都した桓武天皇の晩年です。
ただし、創建当初の立地は正確にはここではなく、もう少し南へ進んだ元興寺の
南大門の外(南)、現在の井上町であったそうです。
井上神社
現在の井上町には、ひっそりと小さな祠が存在しています。
大きな地図にも載っていないような、こぢんまりとした祠です。
その名も「井上神社」です
祭神はもちろん、井上内親王、そして他戸親王。
朱色が印象的ですがとても小さく、扉は普段から閉まっているそうです。
(私も三度くらいお参りしましたが、いつも閉じられていました)
由緒書の写真が見づらくてすみません。
上述の通り、延暦年間に御霊神社が当初はこの付近に建てられたのですが、
宝徳年間(1450年頃)の大火で焼けてしまい、元興寺により現在地へ移転・再建されました。
その後焼け跡となったこの地には民家が連なるようになり、住民たちによって
井上内親王・他戸親王の母子二柱のみを祀る「井上神社」が建てられたということです。
上に載せた地図の青い矢印が示す☆が移転先の現在の御霊神社、
緑の矢印の示す☆が井上神社の位置です。
「井上町」の由来書き。
井上神社の場所は地図に載っていないこともあるので説明すると、
「田中町」バス停のすぐそば井上町会所前、脇は交番になっています。
そして最近、井上神社の西隣におしゃれなスポットができました
奈良の人気店「くるみの木」が監修している施設「鹿の舟」です(上地図参照)。
ならまちの井上内親王めぐりの終着点として休憩にオススメです!
こちらは姉ブログに書きましたので、よろしければご覧ください
井上神社隣接の新スポット、鹿の舟 くじょう みやび日録
元興寺についてはもう少し話を続けたいので、また後日更新いたします。
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