作家・杉本苑子さん逝去
永井路子とは同い年の盟友
さきほど帰宅してニュースを目にしました。やはりショックですね……
2017年5月31日、老衰のため死去。91歳。
絢爛たる受賞履歴などはニュースで繰り返されているので割愛しますが、
私にとって「杉本苑子」は、私を楽しませてくれた歴史小説家であり、
尊敬する作家「永井路子」の“盟友”なのです。
杉本さんと永井さんのお二人は、なにかと比較されがちな存在なのではないでしょうか。
年齢もちょうど一緒(大正14年生まれの丑年)でデビューも同時期、
今日ではさほど珍しくありませんがともに女流歴史作家。
杉本さんによると、昭和27年(1952)の『サンデー毎日』懸賞小説に入賞した(歴史部門で
永井第2席、杉本佳作)際、エレベーターの中で言葉を交わしたのが最初の出逢いだとか。
そのときの両者はまだ27歳ということになりますね。
[参考:『永井路子展』目録/古河文学館、平成15年]
お二人には対談での共著もありますね。
『ごめんあそばせ 独断日本史』は、知的でパワフルなお姉さまの無敵の対談。
※(姉ブログの記事へリンク)
そして未読の対談『時代を旅する』がちょうど先日、手許に届いたばかりでした。
印象深い杉本苑子作品
古代史を中心に、私の親しんだ杉本作品を簡単に列挙。
★は過去記事あり、リンク。
『穢土荘厳』★
長屋王の変から大仏開眼までを濃密かつ重層的に描く。杉本作品のマイベスト。
『檀林皇后私譜』★
嵯峨天皇皇后・橘嘉智子の生涯。
個人的にはあまり好きな小説ではないが、影響は大きい。
『天智帝をめぐる七人』★
天智天皇をめぐる人たちのモノローグで、天智を浮き彫りに。
杉本さんが天智を好きでないというのが面白い。『水鏡』の逸話をあとがきで知った。
『二条ノ后』
短編集。表題は藤原高子を指す。在原業平の思惑が興味深い。
『山河寂寥』★
藤原基経の妹、藤原淑子。この時代を描く小説が珍しかった!
『散華 紫式部の生涯』
詳細不明な紫式部の生涯を描き切った力作。藤原彰子に惹かれました。
『竹ノ御所鞠子』
唯一源氏の血を伝える源頼家の娘・鞠子を描いた悲劇。
以下は古代史以外の作品を。
最も感銘を受けた作品は、『絵島疑獄』。江戸時代大奥の有名な事件、
いわゆる「絵島生島事件」を小説の形をとりつつ分析、絵島の冤罪を明らかに。
これは面白かったです。単なる女の争いではありません。
最も好きなのは『元禄歳時記』! これも江戸時代、のちに将軍となる家宣が
“新見左近”と名乗ったころのお忍び痛快時代劇。相棒は新井勘解由(白石)!
衝撃的な短編としては、『永代橋崩落』。これも江戸時代の実際の事件に取材。
人間の心理描写に感心したり、ぞくっとしたり。特に母性の醜さが恐ろしい……
(このへん生涯独身を貫いた杉本さんらしい解釈かな?)
あらゆる“汚名”を引き受けた本多正純の『汚名』、足利直義に思い入れた『風の群像』、
西園寺実兼の視点から古典を描き直した歴史小説『新とはずがたり』、
祖母と母のお市・お江与、そして徳川和子にいたる『月宮の人』……
読み返したい本がいっぱいです!
正直言って、歴史小説家としての私の好みで言えば、ご都合主義に思える部分が
散見する杉本苑子作品に比して、永井路子作品に圧倒的な軍配が上がるのですが、
杉本苑子作品は心理描写が良くも悪くも面白い。小説としての魅力は上かもね。
とりあえずは、先日届いた杉本苑子・永井路子『時代を旅する』を読もうかな。
~ご冥福をお祈りいたします~
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