◆訃報◆

 作家・杉本苑子さん逝去


 永井路子とは同い年の盟友

 さきほど帰宅してニュースを目にしました。やはりショックですね……

 2017年5月31日、老衰のため死去。91歳。
 絢爛たる受賞履歴などはニュースで繰り返されているので割愛しますが、
 私にとって「杉本苑子」は、私を楽しませてくれた歴史小説家であり、
 尊敬する作家「永井路子」の“盟友”なのです。

 杉本さんと永井さんのお二人は、なにかと比較されがちな存在なのではないでしょうか。

 年齢もちょうど一緒(大正14年生まれの丑年)でデビューも同時期、
 今日ではさほど珍しくありませんがともに女流歴史作家。
 杉本さんによると、昭和27年(1952)の『サンデー毎日』懸賞小説に入賞した(歴史部門で
 永井第2席、杉本佳作)際、エレベーターの中で言葉を交わしたのが最初の出逢いだとか。
 そのときの両者はまだ27歳ということになりますね。
   [参考:『永井路子展』目録/古河文学館、平成15年]


 お二人には対談での共著もありますね。
 『ごめんあそばせ 独断日本史』は、知的でパワフルなお姉さまの無敵の対談。
  ※(姉ブログの記事へリンク)
 そして未読の対談『時代を旅する』がちょうど先日、手許に届いたばかりでした。
 

 印象深い杉本苑子作品

 古代史を中心に、私の親しんだ杉本作品を簡単に列挙。
 ★は過去記事あり、リンク。

 『穢土荘厳
  長屋王の変から大仏開眼までを濃密かつ重層的に描く。杉本作品のマイベスト。

 『檀林皇后私譜
  嵯峨天皇皇后・橘嘉智子の生涯。
  個人的にはあまり好きな小説ではないが、影響は大きい。

 『天智帝をめぐる七人
  天智天皇をめぐる人たちのモノローグで、天智を浮き彫りに。
  杉本さんが天智を好きでないというのが面白い。『水鏡』の逸話をあとがきで知った。

 『二条ノ后
  短編集。表題は藤原高子を指す。在原業平の思惑が興味深い。

 『山河寂寥
  藤原基経の妹、藤原淑子。この時代を描く小説が珍しかった!

 『散華 紫式部の生涯
  詳細不明な紫式部の生涯を描き切った力作。藤原彰子に惹かれました。

 『竹ノ御所鞠子
  唯一源氏の血を伝える源頼家の娘・鞠子を描いた悲劇。

 以下は古代史以外の作品を。

 最も感銘を受けた作品は、『絵島疑獄』。江戸時代大奥の有名な事件、
 いわゆる「絵島生島事件」を小説の形をとりつつ分析、絵島の冤罪を明らかに。
 これは面白かったです。単なる女の争いではありません。

 最も好きなのは『元禄歳時記』! これも江戸時代、のちに将軍となる家宣が
 “新見左近”と名乗ったころのお忍び痛快時代劇。相棒は新井勘解由(白石)!

 衝撃的な短編としては、『永代橋崩落』。これも江戸時代の実際の事件に取材。
 人間の心理描写に感心したり、ぞくっとしたり。特に母性の醜さが恐ろしい……
 (このへん生涯独身を貫いた杉本さんらしい解釈かな?)

 あらゆる“汚名”を引き受けた本多正純の『汚名』、足利直義に思い入れた『風の群像』、
 西園寺実兼の視点から古典を描き直した歴史小説『新とはずがたり』、
 祖母と母のお市・お江与、そして徳川和子にいたる『月宮の人』……
 読み返したい本がいっぱいです!


 正直言って、歴史小説家としての私の好みで言えば、ご都合主義に思える部分が
 散見する杉本苑子作品に比して、永井路子作品に圧倒的な軍配が上がるのですが、
 杉本苑子作品は心理描写が良くも悪くも面白い。小説としての魅力は上かもね。

 とりあえずは、先日届いた杉本苑子・永井路子『時代を旅する』を読もうかな。

 ~ご冥福をお祈りいたします~



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