◆小倉百人一首 歌・解釈・歌人・書道作品◆第10回
   46~50番(曽禰好忠・恵慶法師・源重之・大中臣能宣・藤原義孝)

  * * *
 藤原定家が小倉山荘で撰んだという「小倉百人一首」。

 かるたとして、歌の基本学習として、かな書道入門として、
 さまざまに親しまれています。

 飛鳥時代の天智天皇からはじまり鎌倉時代の順徳院まで、
 「百人一首」がほぼ時代順に並びます。

 天智天皇から5首ずつ、全20回で歌・解釈・歌人について、
 を書道作品入りでまとめました。
  (一番下にある各首の冒頭の番号をクリックしてください。
   リンク先は 姉ブログ「くじょう みやび日録」)
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 ◆第10回:46~50番

 今回は、50番・藤原義孝の歌にちなみ、百人一首で私の好きな“命の歌”
 ベスト3をピックアップしてみました



 君がため 惜しからざりし さへ 長くもがなと 思ひけるかな
    藤原義孝

 (訳)あなたにお逢いするためなら惜しくないと思っていた命までもが、
   (こうしてお逢いして契ることができたあとでは、これからもずっとこの
   幸せが続くように)長らえてほしいと思うようになったよ。

 素敵な歌ですが、ことさら心に響くのは、この歌を詠んだ藤原義孝が若くして
 亡くなっているところです。あなたに逢い続けるために長く生きたい――と
 願ったにもかかわらず、数え21歳という若さで、流行り病に斃れてしまいます。

 義孝は太政大臣・藤原伊尹の三男というやんごとなき貴公子で、
 容姿端麗、多くの女性との恋を匂わせる歌もたくさん残っています。
 この歌も、どの女性に宛てて詠んだものかは不明です。
 ただ一方で、信心深く真面目な人柄のうかがえる逸話も多いのです。
  ☆過去記事☆“後少将”藤原義孝の物語

 そしてこの貴公子が、三蹟として有名な藤原行成の父親だったのでした。


 あと2首、好きな命の歌を挙げます。
 1首目は54番。

  わすれじの 行末までは かたければ 今日をかぎりの ともがな
      儀同三司母 


 訳:忘れまいとおっしゃる、そのことばの将来のことまではあてにできそうにも
 ありませんので、今日を最後の(日として、息絶える)命であってほしいものです。

 この「儀同三司母」は高階貴子藤原道隆道長の同母長兄)の妻でした。
 「儀同三司」は彼女の息子の藤原伊周のこと、ほかに二人の間で有名な子には、
 枕草子のヒロイン「中宮定子」や、東宮妃原子、伊周の弟には隆家がいます。
 定子はじめ美男美女といわれますし、貴子もきっと美しい女性だったのでしょう。
 容姿だけではなく、貴子は学者の家に生まれ、女性ながら漢学もこなし(当時女性の
 教養としてある程度の漢学はあったと思うのですが、表にはあまり出さない)、
 円融朝に仕えた「高内侍(こうのないし)」として名高い才女でした。

 そのインテリ才女が、こんなどちらかといえば野性的で、情熱的な歌を詠むなんて
 ……萌えませんか 歌の持つ力強さもさることながら、ギャップ萌えも好きな歌です。

 貴子×道隆
 ▲杉田圭『うた恋い。3』メディアファクトリー、2012年、53頁

 (おまけ)貴子のようなわかりやすい才女が好きなので、この漫画の話はお気に入り。
 道隆は将来有望な貴公子で嫡男ですし、高階氏よりも上のランクの娘と結ばれてもおかしくないと思うんです。
 なのに貴子を生涯大事にしたというところに、妄想が膨らむのであります!^^




 2首目は89番。毎度のことで恐縮ですが、やっぱりこの歌です!

 玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする

    式子内親王


 訳:わが命よ、絶えてしまうものならば絶えてしまえ。こうして生き長らえていると、
 胸に秘めた思いを抑えきれず、人目にわかってしまうといけないから。

 「命」という語は入っていませんが、「玉の緒」が命を表すので入れました!
 (「魂(たま)」をつなぎとめる緒の意味)

 作者は平安時代後期の式子内親王。後白河天皇の第3皇女、賀茂斎院、准三后。
 同母弟に以仁王。藤原俊成に歌を学んだという、新古今時代の代表的歌人。

 『新古今和歌集』巻一に「百首歌の中に忍恋」とあり題詠歌(お題に沿って詠む歌)
 ですが、素敵ですね そう、歌は必ずしも実体験でなくていいんです。
 だって芸術ですからね。このころの残る歌はほとんどが題詠歌になっているはずです。
 
 歌から実際の背景を想像・推測するのもまた楽しいですが、
 純粋に「歌」として受け取るという姿勢も忘れてはいけないですね。



 3首あげましたが、好きな順位は自分でもわかりません。
 いずれも甲乙つけがたい素敵な歌です



 46番 由良の門を渡る舟人かぢを絶え行方も知らぬ 恋のみちかな
  曽禰好忠

 47番  八重むぐらしげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり 
   恵慶法師

 48番 風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけてものを 思ふころかな
  源重之

 49番  みかきもり 衛士のたく火の 夜はもえ 昼は消えつつ ものをこそ思へ
  大中臣能宣          

 50番 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
  藤原義孝


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