◆本紹介◆平安時代、伊東潤

 伊東潤『悪左府の女』~先月の新刊より


 7月14日は藤原頼長の祥月命日

 保元元年(1156)7月14日、藤原頼長歿す。

 鳥羽法皇の臨終後、左大臣・藤原頼長は、
 崇徳上皇とともに後白河天皇方と戦って敗れます(保元の乱)。
 7月11日の戦で流れ矢に当たりながら奈良まで逃れ、
 そこで重傷に苦しみながら、この日の巳刻(午前10時ごろ)、
 ついに息を引き取ったそうです。37歳。

  * * *

 今年はちょうど新刊『悪左府の女』が刊行されて間もないので、ご紹介しましょう。

 「悪左府」とは頼長の異名で、“切れ者の左大臣”といった程度の意味です。

 新刊タイトル『悪左府の女』ですが、「悪左府」はもちろん頼長のことを表します。
 頼長主人公の小説……!?
 と思って読むと、ちがいます。
 もう一度タイトルを確認すると……「悪左府の女」でしたね!

 
 悪左府の女
 ▲帯を取って全体を広げたところ。帯付き写真は下にあります。帯推薦文は女優・高島礼子さん。
  高島さんと作者・伊東潤さんの対談が『オール讀物』7月号に掲載されています。
  インターネットでは7月3日配信の「文春オンライン」で読むことができます。



 そう、主役はあくまでも悪左府の女であり、「悪左府頼長ではありません
 困ったことに、頼長にはまったく魅力がありませんでした……
 (頼長祭なのに、スミマセン!
 ……ので、簡単にご紹介します!
 


 逞しく生き抜く、ある下級貴族の女を描く

 「悪左府」頼長が権力争いの道具として目を付けた、下級貴族の娘・春澄栄子
 彼女は時近衛天皇好みと推測される「醜女」で、さらに帝を惹きつける琵琶の上手。
 つまり「女」といっても自らの情人ではなく、天皇の子を宿すため――

 そのころ摂関家は、異母兄・藤原忠通と、父・忠実を背後につけた頼長とが対立。
 まだ幼い頼長の養女・藤原多子に対抗し、忠通の養女・藤原呈子が入内していた。
 この呈子が「醜女」だという……

 この主人公の栄子は、基本的には善人で賢く心優しい女性なのですが、
 生き残るため、もしくは彼女なりの正義のためには、悪どいこともやり果せる逞しい人物。
 ピカレスクとも銘打っていますが、最初から最後までまったく魅力が感じられず有能さも
 伝わらなかった頼長ではなく栄子にこそまさにふさわしい

 この時代おなじみの登場人物から創作と思しき人物まで出てきますが、
 最初の頁に「主要登場人物一覧」が見開きになっているのが親切ですね。
 この時代に馴染みがない場合にも、とてもわかりやすいと思います!

 それにしても、清濁併せ呑む栄子。あっと驚くラストも、彼女の人間力のなせる業。
 そしてしつこく「醜女」って表現されつつモテすぎ!
 あまりの主人公無双ぶりに古典的少女漫画かと思いました。
 (まるで男性作家が書いたはいからさんが通る』?)



 貴族の世から武士の世へ……そのとき摂関家は?

 物語は、宮廷や頼長周辺での女性たちの醜い争いや貴族たちの派閥・権力闘争から
 始まっていきます。最大の焦点は、異母兄・忠通との競り合いでした。

 ところが気がつけば、朝廷でも平清盛はじめ武士の力が目立ち始めていた……
 自分に仕える武家勢力である源為義らの存在が、頼長にとって日々大きくなってくる。
 さらに信西のような成り上がりの新勢力の台頭も。

 そして、保元の乱を目前に摂関家は大きな賭けに出る――その計画とは?

 保元の乱にいたるまでの政変にも、独自の解釈を加えている部分などがあり、
 よりスリリングな内容になっています。(ラストに関わる内容も含みます)



 我らが頼長サマの魅力がまったく感じられないのは残念ですが、
 スリルありラブありサプライズありというエンターテイメント小説ですね

  
 ■書誌データ■

悪左府の女
伊東 潤
文藝春秋
2017-06-09



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